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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)487号 決定 1985年1月25日

抗告人

森みち子

右代理人

佐々木秀雄

嘉村孝

房川樹芳

内谷利江

相手方

下館第一劇場株式会社

右代表者

椿春男

相手方

椿春男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一(抗告の趣旨・理由)

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。本案判決確定に至るまで、相手方椿は相手方会社の取締役及び代表取締役の職務を執行してはならない。右期間中、裁判所の選任する適任者をしてその職務を代行せしめる。」との決定を求めるというものであり、抗告の理由は、要するに、「原決定は、相手方椿につき、抗告人の主張する取締役及び代表取締役としての違法行為があつたことを認定しながら、商法二七〇条一項にいう『急迫ナル事情』が存在しないとして本件仮処分申請を却下したが、『急迫ナル事情』の存在は右違法行為自体の内容、性質からみて明らかであり、原決定はこの点に関する法令の解釈を誤り、事実を誤認したものである。」というにある。

二(当裁判所の判断)

1  抗告人による本件仮処分の申請は、相手方会社、同椿に対する取締役解任の訴を本案訴訟とするものであるところ、本件記録によれば、相手方椿の解任を目的とする議案が相手方会社の株主総会に提出審議されたが否決された(ないし可決に至らなかつた)事実は、抗告人の主張によるも明確ではなく、疎明上もこれを(解任のための総会の招集を請求した事実さえも)認めることができない。抗告人は、定時株主総会(その招集通知には右解任議案が会議の目的として記載されていない。)における解任動議が曖昧に処理されたことをもつて解任議案の否決がなされたのと同視すべきものと主張するもののようであるが、独自の見解であつて、採りえない。したがつて、解任の議案が否決された場合にはじめて発生する、裁判所に対して解任を請求する権利は、本件においては未だ発生せず、解任の訴を適法に提起しうべき要件が実体上充足されていないものといわなければならないから、右訴を本案訴訟とする本件仮処分の申請も、これを認容しうべき限りでないといわざるを得ない。

2  のみならず、商法二五六条一項、三項は、取締役の任期は原則として二年を超えることができないが、定款により任期中の最終の決算期に関する定時株主総会の終結に至るまでその任期を伸長することを妨げない旨規定するところ、本件記録によれば、相手方会社の定款には、①決算期は毎年三月三一日とする、②定時株主総会は毎年六月に招集する、③取締役の任期は就任後二回目の定時株主総会終結の時に満了する、という定めがあること、相手方椿は昭和五七年の定時株主総会において相手方会社の取締役に選任されたものであることが認められる。

そこで、以上の点からすれば、相手方椿の取締役の任期は、昭和五九年六月招集の相手方会社の定時株主総会の終結をもつて満了するはずのものであることが明らかであるが、前示記録によると、同月二四日に招集された右総会は、同年七月一日、八月一二日、一一月一九日に順次継続して再開され、いまなお実質的終結に至つていないこと、そのため、抗告人は、昭和五七年の選任に基づく相手方椿の取締役の任期が未だ満了していないものとして、本件仮処分申請に及んでいるものであることを認めることができる。

しかしながら、前記商法の規定及び定款の定めは、定款所定の時期に定時株主総会が招集され、終結されるという通常の事態を予定したものであつて、右認定のように定時株主総会において実質的決議がされず、総会を継続することにより、本来ならば当然到来すべき取締役の任期が際限なく伸長することを無条件に是認するものとは解しがたいものというべきであり、この見地からすれば、相手方椿の取締役の任期は、定款の定めによる相手方会社の昭和五九年における定時株主総会の招集時期である同年六月をはるかに経過し、しかも前記一一月一九日の株主総会も後会の期日を定めることなく事実上続行され、構成株主の持株関係から、定時総会の付議事項につき実質的決議に到達しうる見通しのたたないまま、いたずらに紛糾を続けているものと記録上うかがわれる現段階においては、あたかも株主総会の招集のないまま右六月を経過したような場合と同様に、もはや満了したものとするを妨げない。

そうすると、相手方椿は、商法二五八条一項、二六一条三項の規定により相手方会社の取締役、代表取締役の権利義務を有するものであるにしても、解任の訴の対象たる取締役の地位にはないというべく、取締役解任請求権を被保全権利とする抗告人の本件仮処分申請は、この理由からも前提を欠くこととなり、右規定による退任取締役、同代表取締役としての職務権限の行使を不当とする抗告人の対応策は、法の予定する別の手段によるべきではないかと考えられる。

三よつて、抗告人の本件仮処分申請を却下した原決定は、その結論において相当であつて、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(横山長 尾方滋 浅野正樹)

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